愛犬ごはんをきっかけに

今年も、お味噌仕込みの季節がやってきました。
もともと私が発酵を学び始めたのは、愛犬のためでした。
大切な家族の健康を願って飛び込んだ世界でしたが、学び進めるうちに、
私たちの暮らしが、いかに発酵菌の働きに支えられているかに気づかされました。

お漬物、お味噌、お醤油……。多種多様な発酵食は、その土地の気候や暮らしの知恵、そして「わが家の味」に深く根差した文化そのものです。そして、そこに欠かせない食材たちもまた、その土地の物語を背負っていることを知りました。

大豆それぞれの「出自や個性」を意識する

自分でお味噌を仕込んでみようと材料をそろえ始めたとき、私は初めて「大豆」という存在を、自分に関係するものとして強く意識しました。

それまでは、大豆といえば楕円形のイメージでしたが、乾物として流通している大豆はまん丸です。それが一晩水に浸しておくと、見慣れた大豆の形に戻っていく。その不思議な生命力に触れ、大豆にもお米と同じようにたくさんの品種や銘柄があることを知りました。

原材料のラベルを見れば、海外産もあれば国産もある。おにぎりに合うお米があるように、お味噌に適した品種、納豆に向く品種……。そんな風に大豆の「出自や個性」が見えてくると、やはりお味噌にして一番おいしい大豆を選びたい、と思うようになりました。

変えていくこと、守ろうとすること

調べていくうちに分かったのは、お豆を無農薬や減農薬で育てることは、想像以上に大変な作業だということです。以前、知り合いの農家さんが「ひよこ豆を作ってみるね」と言ってくれたことがありましたが、害虫や気候の影響で、ほとんど収穫できなかったことがありました。

そんな厳しさを少しでも想像できるようになったからこそ、今も守り継がれている「在来種」のすごさが少しは想像できるようになりました。

世の中には、収穫しやすさやおいしさを求めて品種改良を重ねてきた大豆もあります。それは、より良いものを求めた先人の営みの産物です。一方で「在来種」は、今ある良さを変えないよう、何代にもわたって守り抜いてきた営みの産物。

私が出会った「青山在来大豆」は、埼玉県小川町で大切に守られてきた、そんな貴重な在来種の一つでした。

過酷な自然の中で実ってくれた

「在来種」と聞くと少し難しく感じるかもしれませんが、その土地でずっと命をつないできた、個性がぎゅっと詰まった大豆のこと。驚くほど甘みが強くて、茹でたてをひと口つまみ食いするだけで、しあわせな気持ちになれる大豆です。

でも、この「おいしい」が手元に届くのは、決して当たり前ではありません。

昨夏の記録的な猛暑。私がこの大豆に出会うきっかけをくれた友人が手伝っていた農家さんの畑では、あまりの暑さに、収穫を心待ちにしていた大豆がほとんど育たなかったそうです。

どれほど大切に土を耕し、毎日大豆の様子を気にかけていても、自然の力の前ではどうにもできないことがある。いま、私の手元にある大豆は、同じ地域の別の農家さんが困難を乗り越えて届けてくださった、本当に貴重なひと粒なのです。

「おいしくいただく」という、私なりの感謝

農家さんの苦労を知って、簡単に「応援しています」とは言えず
私にできることは、何だろう。
そう考えた時のひとつのこたえは、あたりまえのことですが
目の前に届いた食材を最高においしくいただくことだと思いました。

畑の恵みを心から楽しみ、感謝して味わうこと。
それが、ここまで種を繋ぎ、育ててくださった方への一番の礼儀であり、
お返しになるのではないか。そう思うのです。

「感謝する」とは、何か特別な儀式ではありません。 この大豆の向こう側に、必ず誰かがいて、その人の想いがあることを知ること。その過程を自分の中にしっかり存在させて、丁寧に料理すること。 そんな、ささやかな手仕事の時間そのものだと感じています。

味噌作りのワークショップ

私がお味噌作りのワークショップをみなさんと行いたい理由は、実はとてもシンプルです。

昔ながらの手仕事に触れて、自分の手で何かを作るあたたかさを感じていただきたい。そして、作り手の想いが込められた食材に、いただく側の感謝を重ねて、おいしくいただく。その豊かな時間を分かち合いたいからです。

一粒一粒を愛おしみながら大豆を潰し、麹と合わせる。 そんな、心まで整うひとときを、ご一緒できたら嬉しいです。

手仕事のなかで、意識できなかったものに出会う


大豆だけでなく、私が見ていると思っている世界は、見えているようでいて、実はまだ見えていないものの方が多いのかもしれません。 自分に届くことは、あたりまえではない。 だからこそ、今年も感謝を込めて、青山在来大豆を使ってお味噌を仕込みたいと思います。

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